つるり、つるり。艶やかな麺をたぐると、思わずほほがゆるむ。鎌倉大町で70年続く老舗の製麺所が手がける中華麺は、界隈の30もの店で展開。湘南で暮らしている方なら、きっとどこかで出合うっているはず。現在の当主は3代目の関康(せき・やすし)さん。生まれ育った実家は製麺所の隣、物心つく前から小麦粉の香りと製麺機の音になじんできた。「継ぐという意識は強くはなかったですが、一歩一歩、積み重ねていく感じの仕事が嫌いではなかったです。長い間続いてきたのに、僕がやめるという選択をするほど自分に取 り柄もなかった」と口にするが、関さんは30代半ばまで家具職人としても活躍。現在も製 麺業と家具の創作活動を両立させている。だが、両者は対極。顧客が求めるのは、毎日変 わらぬ味。家具に必要なのは個々のオーダーに応じた新しいデザイン。「それが意外と心 地いいんです」というやわらかな考えが、老舗に新たな風を吹き込んでいる。店頭での小 売り販売、全国へのオンライン販売を手がけ、行列、完売という人気に。そして、この春 から製麺所の隣でキッチンカーで焼きそばを販売。「僕は鎌倉の街も人も大好きです。で すが、今は開発が進み昔からの商店が続々と看板を下ろしてしまい、街の姿が変わってき ています。それが残念で……。自分のような3代目でも何か楽しそうにやっているな、家 業を継ぐってそんなに堅苦しくないよ、と思ってもらえれば」。変わらぬもの、変わるも の。その狭間から新しい鎌倉が生まれていく。