鎌倉の横町に、隠れ家のようなたたずまいの店がある。中をのぞくと、老若男女が料理に舌鼓を打ち、グラスを片手に会話を楽しみ、和気あいあい。オープンしてわずか数ヵ月あまりだが、すっかり地元の人気店の様子。オーナーは鎌倉で暮らす枦山創大(はぜやまそうた)さん。ずっと飲食業にたずさわり、念願の店を構えた。「おいしいものをおいしくするのではなくて、普通のものを、ちゃんと手をかけておいしくする方が好きですね」との言葉通り、その料理は決して華美ではないが、食べ進めるほどに笑みが浮かぶ。旬の食材が身近で手に入るのが、山と海に恵まれた鎌倉の強みだそう。料理の原点は、小学生の時に祖母につくったフレンチトースト。「おいしいとほめられたのがうれしくて」と懐かしむ。「『おいしい』と言って食べているのは、すごく幸せな光景ですよね」と笑う。店内で目を引くのは、壁に飾られた絵や写真の数々。アーティストとしての顔も持つ枦山さんは、「アートに縁がない方にも身近に感じてもらいたい」と店にギャラリーを併設。「鎌倉には友達もいっぱいいるし、自分が住んでいる所がおもしろくなるのが一番」。鎌倉発、食とアートの新しいムーブメントが、ここで創られる。
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